貿易銀

 製造地‐日本 製作年代‐明治8年(1975) 製作者‐明治天皇 材質‐銀 価格‐600,000〜80,000(日本貨幣カタログ1996年版による。特記のない場合以下同じ)  

中国市場で貿易用1円銀貨がなかなか信用されず、流通が滞っているのに業を煮やし銀を増量して発行されたのがこの貿易銀だという。

結果は…。やはり流通しなかった。1円銀貨が受け取り拒否などの憂き目にあったり、プレミアをつけないと受け取ってもらえなかったのに対して、この銀貨は大半が鋳潰されてしまったという。

おかげで試鋳貨でなく流通用に大量発行されたにもかかわらず、この種の古銭にしては異常に高い。

ところで、中国商人はこれを鋳潰してどうしたのだろう。馬蹄銀に作り直したのだろうか。融解して再度凝固させているうちに失われる銀量は、1円銀貨から増量された銀量より明らかに多いと思われるのだが。どうもそのあたりの行動が、心理的にはわからないでもないのだが、経済的な行動と考えると合理的ではないような気がする。よく「利に聡い中国商人によって鋳潰された」という記述があるが、本当に「利に聡い」ならば鋳潰さないのではないか。

まだ8リアル銀貨が広く流通する前ならば、1ドル型銀貨を自分たちが使い慣れた馬蹄銀に作り直すというのもわかるのだが、1ドル型銀貨が広く流通していたのに、少し銀量が多いくらいで、わざわざその銀量より高いコストをかけて馬蹄銀に戻すとは。現在と違って財産的な価値以外に銀の幅広い用途があったとも思えない。

もちろん、いわゆる融解点を越えるという現象は筆者も承知している。硬貨として使用するよりも他の用途で使用した方が利益になる場合、その硬貨は鋳潰されてしまう。

しかし、貿易銀が融解点を越えていたとはどうも思えないのだ。大半は単に退蔵されただけではないのだろうか。

 何が言いたいかといえば、鋳潰されれば永久に消えてしまうが、退蔵されたものはいつかまた市場に出てくる可能性があるということだ。これは日本の新金貨についても同様である。どこかのナショナルバンクの地下にこの銀貨が眠っていることを期待したい。

 

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