中等・大學・職業野球通信第7号
−リンゴ1個で早慶戦大荒れ−
混乱する神宮球場 リンゴを投げた慶応・水原選手
リンゴ1個で大変なことが起こるものである。
早慶戦といえば応援合戦のあまりの加熱ぶりに明治39年秋の3回戦が中止されて以来、大正14年に19年ぶりにやっと復活したのだが、両校の応援は相変わらず過激の一言に尽きる。
去る10月22日、1勝1敗で迎えた早慶3回戦は、リンゴ1個を巡って大騒動となった。
早稲田・悳、慶応・三宅の先発で始まった試合は、早大が2回表に1点を先行すれば、その裏に慶応が4点を奪って逆転。その後3対5まで追い上げた早大が6回に3点を挙げて再度逆転、負けじと慶応も7回に同点に追いつくシーソーゲーム。8回に早大が二番手・岸本から2点を勝ち越すと、慶応もその裏やはり二番手・若原から1点を返してスコアは8対7。
いよいよ9回、早大の攻撃に際し、慶大は三塁手に牧野に代えて前年度のエース・水原茂を起用。
肩を痛めてこのシーズン不本意な水原は、この試合も先発から外れて三塁コーチャーを務めていた。
ここにいたって3塁側の早大応援団は野次と怒号に包まれた。というのも、コーチャーの水原が再三にわたって審判のジャッジにクレームをつけ、一回は慶応有利に判定が覆ったからである。
遂に応援席からは次々と物が投げ込まれ始めた。
と、三塁水原の前にコロコロとリンゴが1個転がってきた。これを彼はポーンと応援席に向かって投げた。
この時はすさまじい野次で収まったのだが、9回裏、慶応が井川の2点タイムリーで逆転サヨナラ。激昂した早大応援団が慶大応援席に殺到、両者乱闘となり、慶大応援団の指揮棒が奪われるという事態となったのである。
リンゴが顔に当たったとか当たらないとか、いずれにせよ、早慶戦が再度の中止の危機を迎えていることだけは間違いない。
昭和8年10月23日