中等・大學・職業野球通信第7

−リンゴ1個で早慶戦大荒れ−

  

混乱する神宮球場       リンゴを投げた慶応・水原選手

 

 リンゴ1個で大変なことが起こるものである。

 早慶戦といえば応援合戦のあまりの加熱ぶりに明治39年秋の3回戦が中止されて以来、大正14年に19年ぶりにやっと復活したのだが、両校の応援は相変わらず過激の一言に尽きる。

 去る1022日、11敗で迎えた早慶3回戦は、リンゴ1個を巡って大騒動となった。

 早稲田・悳、慶応・三宅の先発で始まった試合は、早大が2回表に1点を先行すれば、その裏に慶応が4点を奪って逆転。その後35まで追い上げた早大が6回に3点を挙げて再度逆転、負けじと慶応も7回に同点に追いつくシーソーゲーム。8回に早大が二番手・岸本から2点を勝ち越すと、慶応もその裏やはり二番手・若原から1点を返してスコアは87

 いよいよ9回、早大の攻撃に際し、慶大は三塁手に牧野に代えて前年度のエース・水原茂を起用。

 肩を痛めてこのシーズン不本意な水原は、この試合も先発から外れて三塁コーチャーを務めていた。

 ここにいたって3塁側の早大応援団は野次と怒号に包まれた。というのも、コーチャーの水原が再三にわたって審判のジャッジにクレームをつけ、一回は慶応有利に判定が覆ったからである。

 遂に応援席からは次々と物が投げ込まれ始めた。

 と、三塁水原の前にコロコロとリンゴが1個転がってきた。これを彼はポーンと応援席に向かって投げた。

 この時はすさまじい野次で収まったのだが、9回裏、慶応が井川の2点タイムリーで逆転サヨナラ。激昂した早大応援団が慶大応援席に殺到、両者乱闘となり、慶大応援団の指揮棒が奪われるという事態となったのである。

 リンゴが顔に当たったとか当たらないとか、いずれにせよ、早慶戦が再度の中止の危機を迎えていることだけは間違いない。

昭和8年1023

 

 

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