銭名

和同開珎(新和銅) 古和銅銅銭 古和銅銀銭

製造地

日本

製造年代

和銅元年(708)またはそれ以前

製作者

元明天皇またはそれ以前の天皇

材質

価格

\120,000300,000

写真

新和銅古和銅銅銭古和銅銀銭

一銭一話

この貨幣は学校の教科書に日本最古の貨幣として登場し、多少でも貨幣に興味のある人ならば、知らない者がない古銭だろう。ところが、まず日本最初の貨幣であったかどうか怪しい。和同開珎より明らかに製作年代が古い「無文銀銭」「無文銅銭」といわれるものが存在する。富本銭については近年の発掘でこちらが最古の流通貨幣ではないかといわれているが、これについてはまた項を改めて、もう少し勉強してから述べることにする。

しかも、一般には知られていないことだが、この貨幣は実は何という名称だったかさえよく分かっていないのである。この二つについてきちんと研究すれば、あなたが教科書を書き換えるような業績をあげるかも知れないのだ。もし手元に中学校の教科書があれば見てほしい。読みがなのところに「わどうかいちん」「わどうかいほう」の二つが並んで書いてあるはずだ。この貨幣は鋳造された当時の資料には名称が書かれておらず、その名称をめぐって江戸時代から百五十年以上論争が続けられて来た。「珎」の字が「珍」の異字なのか、「寳(宝)」の略字なのかという、世にいう「珍宝」論争である。この論争については、現在ではほぼ「和同開珍」説に傾きつつある。

しかし、私はもっと重要な問題が見逃されて来たと思っている。 もともと和同開珎は唐の開元通宝(または開通元宝)を手本にして作られたという。事実和同開珎と開元通宝(開通元宝)は「開」の字がそっくりなのだ。この開元通宝(開通元宝)にしてからが、唐代の資料には名称が登場せず、上下右左に読む「開元通宝」が正しいのか、時計回りに読む「開通元宝」が正しいのか論争が続けられて来た貨幣なのである。にもかかわらず、それを手本としたといわれる和同開珎に関しては、なぜかすべての論者が時計回りに読むことを前提にしている。開元通宝(開通元宝)に関しては、これ以外の唐の貨幣の多くが時計回りに読むものであるのに、上下右左読みの「開元通宝」説が中国では有力である。それは、玄宗の治世前半の名政治で有名な「開元」という年号が唐に存在したからであり、開元通宝(開通元宝)は開元元年に製造されたと誤解している人さえかつてはいたくらいである。(開元通宝(開通元宝)は武徳四年に鋳造開始‐後晋代に編まれた『旧唐書』) 

和同開珎については、多くの論者が、和銅元年に自然銅の献上を契機に造られたとされる、高度の製作技術を持った「新和同」のほかに、「古和同」と呼ばれる稚拙な貨幣の存在することに頭を悩ませて来た。そして、この古和同は、新和同とほぼ同時に製作されたといわれる和同開珎の銀銭と、文体や製作が極めて似ているのである。古和同と銀銭、新和同をつなぐものは何か。ある者は日本最古の貨幣は和銅元年に造られた新和同であり、古和同は私鋳銭であるとし、ある者は古和同や銀銭は和銅元年以前に流通していた貨幣であるという。また、新和同と銀銭は同時に和銅元年に造られたものであり、「古和同」は銀銭の母銭であるともいう。

私にそれらの論の正否をとやかくいう能力はないが、少なくとも、和同開珎の手本とされる「開元通宝」が、元号である「開元」から「開元通宝」という呼び方が有力になったことは注目に値する。もし古和同が和銅元年以前に流通していたものならば、それまでは別の名前で呼ばれていたものが元号の「和銅」に影響されて「和同開珎」と呼ばれるようになった可能性も十分に考えられるのである。つまり、和同開珎は本来上下右左読みの「和開同珎‐日本の国が始める銅の貨幣」であったかもしれないのだ。こんなことを言ったのは和同開珎の研究が始まって以来私が初めてだろうから、素人の思い違いを研究者にぜひ論破してほしいものである。 

このように、古銭から歴史を見ていくと、文献からそれを研究するのとはまた違った、珍説奇説を唱えたくなってくる。もともと現在有力な学説もかつては珍説奇説と思われていたものが多い。これは一枚の古銭がそれを見るもののイマジネーションをかき立てるからである。お金はそれが登場するや人間にとって最大の関心事となった。古今東西を問わずこの小さな金属片を巡って人々はさまざまな営みをしてきたのである。

古銭を見れば、歴史が見えてくる。この本はそうした意図で中国史を見直そうというものである。断っておくが学問的根拠はほとんどといってない。私のイマジネーションの産物である。しかし、古銭とかかわることが、歴史好きにとってはいかにおもしろい趣味かということだけは分かっていただけると思っている。 

ところで、この和同開珎だが、およそ古銭を収集する人間で欲しくない者はまずいまい。そういう趣味のない人でも記念に一枚あったらうれしいものだ。しかし、人気が高いから現存数に比べて値段が高すぎる。材質に比べて値段の高い古銭には必ず偽物が出現する。事実、和同開珎は古銭市場に大量に偽物が出回った時期があった。『ボナンザ』という今は亡き古銭収集誌はこれを掲載したことで大いに信用をなくしたくらいである。

買えば高いし、自分で探すのもおもしろいかもしれない。結構日本各地で発掘されているし、昭和初期に琵琶湖の沖ノ島というところで、大量の和同開珎を含む皇朝十二銭(奈良から平安にかけて日本の朝廷が発行した貨幣)が湖底から引き上げられた事実があるしで、トレジャーハント(宝探し)の対象としてもおもしろい貨幣だと思う。

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